--  雑談・塾長のつぶやき--                                                                                                                                            学友舎高崎(学友舎 lab)
 
 
賢いハンス症候群 (個別指導と 家庭教師と お母さんの 落とし穴)
                                    2011年2月21日



高崎に移転する前、商用ビルの一室を借りて、塾兼パソコン教室を開いていたときの事です。物理の問題に疲れた高校生が、気晴らしに、塾備品の英検用問題集をながめながら言いました。
「先生、このハンスって馬、妹みたいです。」


妹と馬を比べるとはと、問題集のページに目をやると、数学や日常知識の質問に答えた馬の話がありました。20世紀初め、ドイツ、その馬は数学の計算結果をあて、ルートの根号をはずしました。


動物学者・心理学者・馬調教師・サーカスマネージャーからなる調査団がハンスという馬を調べました。その結果は、

「Hans hadn't learned math, music or German after all. Further studies
showed that he had learned in effect to read people's minds, by
monitoring subtle changes in their body positions, breathing and facial
expressions. So keen was his sense of these cues that informed
questioners couldn't conceal them if they tried. Hans could almost always
tell when it was time to stop tapping or moving his head.」
   (「英検セミナー1級英文読解 日本英語教育教会1993版p44)

ハンスは、質問者の表情や息遣いから正解を当てていただけでした。



私は高校生の言おうとする事が分かりませんでした。塾生がなつくと、ラポール(親愛感)などと言う心理学用語を思い浮かべる位、私はまだ若かったです。


それから幾数年、塾で生き生きと質問して分かったと喜び、完璧に問題をこなす生徒がテストで点を取らない、そのちぐはぐさに悩みました。仏頂面で過ごす生徒の方が、学校のテストで良くできていました。


何年前だか、塾の本棚に今もある、古くなった英検問題集の背表紙に目が行った時、高校生の言葉を連想しました。つまり、生き生きと質問していた生徒は、自分で考えることはせずに、上手な誘導尋問をしていました。



まず、質問で私を呼んだときのアイコンタクトは別にしても、考えているふうな最中に私の目を見つめるのは、十中八九、私の視線や表情から正解の手がかりを探しています。


幼稚園児の外言のように、小学校3年生になっても、いつも思考を口にして問題を解いていたら、それは多分演技です。真剣に思考していたら、外言はじゃまになります。まじめに考えているふりを演じながら、まわりの人を邪魔することもできます。一石二鳥です。


テクニックは多岐にわたります。次から次へと何かを言い、私の表情や視線を読み取る初歩レベルから、わざとできない振りをして私を苛立たせて、私に解答を言わせる高度なものまで。その心理的駆け引きは、心理学研究者になれなかった私など、はるかに凌駕しています。



できないふりは、たいてい「何で勉強するの」という、一聴哲学的な決まり文句のおまけつきでした。これはきっと、お母さんと勉強する中で編み出した一本技です。


小学生なら、本気で勉強の意味を考えるつもりなどひとつもありません。時間稼ぎとガス抜きをかねた戦略核弾頭です。最終兵器はまだこの後に控えています。小学生の小出し心理消耗戦は半分冗談でかわして、最終兵器を使わないように、学力をつけてしまうのがこつです。


それから私は、ポーカーフェイスで説明しヒントを出すことにしました。問題を一緒に考える時は、生徒の顔でなく、問題文と説明図を見つめます。


考えれば当たり前でした。デートしているのではないですから、わたしが生徒とアイコンタクトを続ける必要はありません。その乗りで、かみさんと話す時に、新しく仕入れた物理問題集を見ていたらしかられました。



小学生のうちに、顔色を読む勉強は解消することがほとんどですが、しかし、どこかにその方法でうまく切り抜けられる場があると、中学生になってもしつこく続きます。


塾生の皆さん、私が説明最中にあなたの顔や目を見ないのは、このような理由からです。ご安心ください。問題を解く時は、ともに問題を見つめましょう。おたがいの顔色をうかがっていても、世界は広がりません。



パソコン教室は、自分がパソコンとインターネットの使い方を教えた、結果の罪深さにおののき、高崎移転を機に自主規制し撤退しました。