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【中学英語学習・・処理スピードの落とし穴と「回り道」】(2016年5月26日)

 以前、「カゲヤマメソド」が席巻(せっけん)していた時期は、ストップウオッ
 チを使用して、算数や数学の計算問題を解くスピードを競うことがはやりま
 した。

 計算のスピードと計算操作の習熟度とはある程度相関しますから、計算力を
 定着させるには、ある基準まで速くする必要があります。

 一方、ある答を出すために、どんな心理的操作が用いられているか、を考慮
 せずに、速さを求めると、期待した物とは別物の「能力」が形成されます。


 一部の中学校で、英語のテストで、解答時間に制限時間を設定して、タイム
 リミット内に解答させています。

 平均的な中学1年生の限界に近い制限時間内に、教科書に書かれたたくさん
 の単語を音読するテストと、教科書本文3ページ分の暗唱テストをしました。

 学友舎の生徒さんもそのテストを受けました。
 私にはまねできない位のスピードで、早口に教科書の単語を読み上げました。
 驚くような速さで、教科書3ページを暗唱して見せてくれました。


 そのための努力は立派です。しかし、次のようなことが起こります。

 教科書に書かれた単語を速く読むために、単語のページ内の位置や視覚的形
 態としての特徴を利用して、それからカタカナ式発音を条件反射的に発する
 練習になることがしばしばです。

 教科書の該当ページには、英単語のつづりの横にイラストが添えられていま
 す。
 スピード・トレーニングがそれとして目的となり、当面のテストで合格する
 ことが自己目的化すると、見かけは単語の発音テストが、イラストが表す意
 味表象から、それがさし示す発音を思い浮かべる競争になります。

 英語学習の初めに、フォニクスの練習を省いてそのような癖をつけると、単
 語数が増すにつれて、指数関数的に単語間の区別ができなくなり、英語が苦
 手になります。


 また、この時期に学習する英文は短いですから、英語の構文を把握して、意
 味を思い浮かべながら発話するのではなく、意味の分からないサンスクリッ
 トのお経を暗唱するように、丸暗記できます。

 当初この方略は、面倒な理解を省いて、短時間で好成績をあげられます。
 そのため、簡単な英語を記憶する際の習慣となります。すると、後々の学習
 でハンディとなります。
 
 何はともあれ、学校でそのようなテストをしますから、致し方ありません。


 学友舎では、フォニクスをしっかりと身につけ、英文の語順で意味をとるス
 ラッシュ・リーディングを基本に、文法を活用して英文を変形発話する練習
 に時間をさきます。

 初めのそのような回り道が、最終的な到達度を高めます。
 ご理解のほどよろしくお願いいたします。


 スラッシュリーディング(またはフレーズリーディンク)は、通訳養成学校と
 大学受験予備校、および成績の良い生徒さんを集めた学習塾では、だいぶ以
 前から採用されていました。
 近年は、教科書会社のサイトにも、関連記事が載せられています。
 高崎市内の公立中学校の公認学習方法になるのも近々でしょうか。

   教科書出版社・啓林館のサイト記事
   スラッシュリーディングを導入するときのひと工夫
           日本工業大学駒場高校 斎郷徹教諭
   教科書出版社・大修館書店のサイト記事
   スラッシュ・リーディングを使った指導はこんなふうに
           東京外国語大学 石黒弓美子講師

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   この件は、処理スピードとワーキングメモリー容量の関係、処理スピー
   ドと理解力との関係とからめて、心理学で研究されています。

   日本の心理学界はアメリカ流の実証主義が「国是」ですので、コンピュ
   ーターに組み込まれているCPUのアナロジーとして、人間の心理的能力
   を考えがちです。
   処理スピードは、クロック数の比喩として、「客観的エビデンス」をも
   たらす、大切な実験研究対象です。

   処理スピードが知能検査で測る一般知能を決める要因だという研究があ
   ります。

   30年くらい前から処理スピードを研究している大家は、処理スピード
   を制限するより一般的なメカニズムがある、と20年以前から述べてい
   ますが、それは正統派の思索となじみません。

   一方、科学の世界は、すでに制定された法に従って、正しいか否かを決
   める裁判所ではありませんから(ヨーロッパ中世はそうでした)、処理ス
   ピードとワーキングメモリーのシステム制御機能は、分離可能な別の能
   力だ、という研究もあります。

   あげくのはては、「スピードはすべてではない・・・」という題名の研
   が、公表されています。
                                 (2016年5月26日)