--  雑談・塾長のつぶやき--                                                                                                                                            学友舎高崎(学友舎 lab)
氷の中で生きていたサケの稚魚                                  2011年/1月/17日
    ある年、サケの卵を戸外へ
    今年は凍りついてしまった
    SF映画をまねてゆっくり解凍
    何と生きていた
    素敵な生き物
    サケの卵がくれた思い出の数々
    一番の後悔
    すさまじい教育訓話
    氷点下16度の驚愕



【ある年、サケの卵を戸外へ】

   かれこれ8年、この時期になると小学校でサケの卵をもらってきます。
   最初は家の中で、大事に扱っていたのですが、ある年、

   「この魚は軽井沢や土合のような、外気温が氷点下16度以下になる、表
    面が凍結した川にいる。
    戸外に出してみよう。」
   と北側の直射日光が当たらない場所に移しました。

   すると孵化率はほぼ100パーセントになり、エサをやらずに大きくなる
   期間が延びました。
   3月第一週の放流まで餌がいりません。
   家の中よりもずっと元気でした。


【今年は凍りついてしまった】

   今年も息子がもらってきて、ジャムの瓶に入れたまま戸外に放置してい
   ました。
   朝のぞいてみると、なんと、水が蒸発して水深が2.5センチにさがり、
   ここ数日の寒気で瓶の中の水が全部凍結していました。
   そのカチカチの氷の中に、サケの稚魚は閉じ込められていました。


【SF映画をまねてゆっくり解凍】

   急速解凍すると細胞が破壊されて死んでしまうと思い、振動を与えない
   ように注意して、氷の上に冷水を足して夕方まで放置しました。

   かみさんは「融けたら元に戻るでしょう。死んでも、子供は失敗から学
   ぶでしょう」と、いつもの調子でした。

   しかし、凍っていたのは一晩だけではなかったはずです。
   2日か3日は凍っては解けをくりかえしたはずです。


【何と生きていた】

   夕方、塾の合間にのぞいてみると、なんと生きて泳いでいました。
   1匹、卵から稚魚が生えてきたような発生段階のものは死んでいました
   が、残りの8匹は生きていました。

   サケの体が凍結していたかは確かめていません。
   それをしたら死ぬ恐れがありました。
   色から推測すると、氷に包まれても、サケ自体は凍っていなかったと思
   います。


【素敵な生き物】

   水温が18度くらいになると息苦しくなって死滅するのに、身を切るよう
   な状態で生きているとはなかなか素敵な生き物だ、と冬場タイツが欠か
   せない私は、サケの稚魚にわが身をかえりみました。

    ご参考論文・サイト
    主要魚介類の生息水温等の報告事例 国土交通省
    サケの一生(教育用画像素材集) 独立行政法人 情報処理推進機構
    週刊サケ・マス通信 
    北海道さけ・ますふ化場研究報告 北海道区水産研究所


【サケの卵がくれた思い出の数々】

   サケの卵はいろんな思い出を残してくれました。

   一番最初の年は、水温が高くても水中酸素濃度が十分なら生きているだ
   ろう、とたかをくくって、体裁よく塾の教室に置きました。
   塾の生徒さんと一緒に、発生過程を観察しようと思いました。

   サケの卵は、20度を超える水温、水中ポンプの振動と電磁波、新品の水
   槽とプラスチック製品に含まれるホルモン様物質の影響で、サケではな
   い何か別の物体へと発生しました。

   それは生物と無生物の境界を超越した、人間よりも神に近い存在だった
   かもしれません。
   炭酸カルシウムのような色の何かが、蛇花火のように、卵の中から出て
   きました。

   あれは生きていたのでしょうか。


【一番の後悔】

   一匹だけ生き残って、子供と烏川に放しに行ったこともありました。

   集団放流日の数日後でした。川べりには放流された稚魚をねらう鳥たち
   が群れていました。
   和田橋近辺で放された稚魚は、海へ下るために倉賀野を通ります。
   そこは、浅瀬が続くため、稚魚の多くは、クロサギのエサとなります。

   大切に育てたその一匹は、小さな水槽の世界しか知らず、川の浅瀬から
   泳ぎ去らずに、初めて見る太陽に幻惑されていました。
   上空にはそれをねらう鳥が飛んでいました。

   私は小石をサケのそばに投げて淵へ追いやろうとしました。
   石は、サケの頭を直撃しました。
   小学生の時、川面の魚に石を投げつけても、石が水と接した瞬間に魚は
   逃げ、あたったことはありませんでした。

   狭い水槽の中で生き残った、私たちのお気に入りのサケは、腹を浮かせ
   て流れていきました。
   子供はしばらくのあいだ口をきいてくれませんでした。


【すさまじい教育訓話】

   心理学者のどんな理論よりも、私にとっては、すさまじい訓話となりま
   した。

   サケは戸外で飼います。
   水面が全面凍結したくらいでは死にません。
   家の中で「大切」にしたら、ゆがんだ何かになったり、太陽にたじろい
   でしまいました。
   春になって大きくなったら、窒息しないように広く深い川に放します。


【氷点下16度の驚愕】

   氷点下16度、なかなか迫力があります。
   体はアドレナリンが放出されて極度の緊張状態。
   孤立したらじきに死にます。

   気化熱の関係でしょうか、風が強いと車のフロントガラスに、氷点下35
   度まで耐えるはずのウインドウォッシャー液が、瞬間氷結しました。
   空中で凍り始めていました。

   長男と2人で驚愕の叫びをあげました。

     その気温で吹雪の中、3m先が良く見えない山道と、交差点ごとに
     車が衝突していた道を20キロほど運転したところ、帰宅後ワイン
     が全く効きませんでした。
     あんな体験は一度だけです。
     命にかかわるくらい恐怖の度が過ぎると、アルコールが効かなくな
     るようです。

          ご参考 過冷却水の瞬間凍結 (楽しい実験です)  日本雪氷学会